『食べたくなる本』(三浦哲哉著)レビュー
食べ物をテーマにした本は数多くあるが、『食べたくなる本』は、ただのグルメ本やレシピ本とは一線を画す、まさに「読むだけでお腹が鳴る」一冊である。
この本の魅力は、単に美味しい料理を紹介するだけではなく、食べ物にまつわる物語や文化、食べることの喜びまでを丁寧に描いている点にある。ページをめくるたびに、香ばしいパンの焼ける匂いや、じゅわっと広がる肉汁、果実の甘酸っぱい香りが想像できてしまうほど、文章の力が強いのである。
特に印象的だったのは、食べ物と人との関わりを温かく描いたエピソードの数々。例えば、祖母が作る素朴な味噌汁の話や、旅先で偶然出会った屋台のラーメンの思い出など、一つひとつのエピソードがまるで短編小説のような味わい深さを持っている。それぞれの食べ物に込められた歴史や人の思いを知ることで、普段何気なく口にしている料理も、特別なものに感じられるであろう。
また、視覚的にも楽しめる工夫が凝らされているのも本書の魅力。温かみのあるイラストや、食材の美しい写真が随所に散りばめられており、読んでいるだけで「これ、食べたい!」という気持ちがどんどん膨らんでいく。本を閉じた瞬間、すぐに台所へ向かいたくなること間違いなしである。
『食べたくなる本』は、食べることが好きな人はもちろん、日々の食事をもっと大切にしたいと考えている人にもおすすめの一冊である。忙しい毎日の中でつい忘れがちな、「食べることの楽しさ」を思い出させてくれる、心温まる一冊である。
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