『センスの哲学』(千葉雅也著)レビュー
千葉雅也氏の『センスの哲学』は、「センスとは何か?」という問いに真正面から向き合い、その本質を哲学的に掘り下げた一冊である。センスと聞くと、美的感覚や才能といった曖昧なイメージを抱きがちであるが、本書ではそれを単なる個人の感覚にとどめず、社会や文化との関係性の中で捉え直す。
千葉氏の思考は鋭く、かつ読者に寄り添う形で展開されていく。単なる抽象的な議論にとどまらず、私たちが日々直面する「センスが問われる場面」を具体例として取り上げながら、その奥にある論理を解き明かしていくのである。例えば、ファッションやアート、言葉の選び方において「センスがいい/悪い」と評価されるのはなぜか? それは単なる個人の好みの問題ではなく、時代や社会の流れ、あるいは他者との関係性の中で形作られるものであると、本書は語る。
また、本書の魅力は「センス=正解ではない」という視点にもある。多くの人が「センスのある人になりたい」と願う一方で、その定義は固定されたものではなく、時代とともに変化する流動的なもの。だからこそ、センスを磨くとは、単に「流行を追うこと」ではなく、「自分なりの判断基準を持ちつつ、状況に応じて柔軟に適応すること」なのだと、本書は示唆する。
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