『現代美術史――欧米、日本、トランスナショナル』(山本浩貴著)レビュー
山本浩貴著『現代美術史』は、単なる美術の歴史をなぞるのではなく、現代美術がどのように社会と関わりながら展開してきたのかを丁寧に解き明かす一冊である。本書の魅力は、アートの動向を単線的な流れで捉えるのではなく、政治・経済・文化といった多様な要素を絡めながら、多角的な視点で読み解いている点にある。
まず、本書の特筆すべき点は、その「視座の広さ」である。一般的な美術史の書籍は、西洋中心の視点から語られることが多いが、本書は日本を含む非西洋圏の動向や、ジェンダー・ポストコロニアリズムといった現代的な視点を積極的に取り入れている。これにより、単なるアート作品の解説にとどまらず、現代美術が抱える構造的な問題や社会との関係性まで深く考察できる内容になっている。
また、著者の筆致は明快で、専門的な議論を扱いつつも、難解な理論に偏ることなく、読者に寄り添った語り口が魅力的である。現代美術というと「難しい」「よくわからない」と感じる人も少なくないが、本書はその敷居を下げ、作品や運動の背景を理解しやすく説明してくれるため、専門知識がない人でも十分楽しめる。特に、各章ごとに具体的なアーティストや作品が紹介されており、それらがどのような歴史的・社会的文脈の中で生まれたのかが明確に示されている点が素晴らしい。
さらに、本書は単なる過去の美術の整理ではなく、「現代において美術とは何か?」という問いを投げかけている。現代美術はしばしば「わかりにくい」と言われますが、その理由の一端が、本書を通じて明らかになる。つまり、現代美術は社会や政治の変化と密接に結びついており、表現の自由や権力との関係、メディア環境の変化などが作品に大きな影響を与えていることが理解できるのである。
総じて、『現代美術史』は、美術の知識を深めたい人はもちろん、現代社会の文化的動向に興味がある人にとっても必読の一冊である。視点の多様性、わかりやすい語り口、そして「現代における美術の意義」を考えさせる内容が詰まった本書は、現代美術を「難解なもの」ではなく、「社会とつながるもの」として捉え直すための優れたガイドとなるであろう。
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