『東大ファッション論集中講義』(平芳裕子著)レビュー

ファッションとは、単なる服の選び方や流行を追うことではなく、社会や文化、人間のアイデンティティを映し出す重要な要素である。平芳裕子氏の『東大ファッション論集中講義』は、東京大学で実際に行われたファッションに関する講義をもとに、ファッションを学問として深く掘り下げた一冊。読めば、「ファッションとは何か?」という根源的な問いに向き合わずにはいられなくなるであろう。

本書の最大の魅力は、ファッションを単なる美的な問題ではなく、歴史・哲学・社会学・経済学といった幅広い視点から分析している点にあります。たとえば、ある時代に流行したスタイルがどのように生まれ、なぜ広まり、そしてなぜ廃れるのか。そこには偶然や個人の趣味嗜好だけではなく、社会の価値観の変化や経済的な要因、さらにはジェンダーや権力構造までが密接に関わっている。

特に興味深いのは、日本と西洋のファッション史の比較。明治時代の洋装化から現代のストリートファッションに至るまで、日本のファッションは西洋の影響を受けつつも独自の進化を遂げてきた。本書では、そうした文化的な交錯がどのようにファッションに反映されてきたのかを、具体的な事例を交えながら解説。ファッションが単なる個人のスタイルではなく、歴史の中で形作られてきた「文化の表現」であることが実感できる。

また、本書のユニークな点は、東京大学という場で行われた講義ならではの、知的で批評的なアプローチ。ファッションを学問的に考察することで、普段は何気なく選んでいる服が持つ意味や、それを着ることが社会的にどのような影響を持つのかを深く考えさせられる。「なぜ私たちはこの服を着るのか?」という問いを突き詰めることで、ファッションをより主体的に楽しめるようになるであろう。

難解な専門書というよりは、講義のエッセンスを凝縮した「集中講義」形式なので、学問としてのファッションに興味がある人なら誰でも楽しめる内容になっている。ファッションが好きな人はもちろん、社会や文化に興味がある人にもおすすめの一冊である。読むことで、服を着るという日常的な行為が、もっと奥深く、面白く感じられるようになるはずである。


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